プリングルズのうましお味を食べる
日本限定の味「うましお味」
プリングルズのうましお味は日本限定のフレーバーだ。アメリカには同じ赤パッケージで「オリジナル(Original)」というフレーバーがある。オリジナルは僕がプリングルズで一番好きなフレーバーである。
ともに赤い缶だし、塩味系フレーバーという点でも共通だが、オリジナルを日本販売時に意訳して「うましお」になったわけではない。原材料が少し違っていて、要するに別物である。
うましお:ポテトフレーク(遺伝子組換えでない)、植物油、小麦でん粉、米粉、調味粉(食塩、砂糖、マルトデキストリン、酵母エキスパウダー、植物油)、マルトデキストリン、ぶどう糖、乳化剤、pH調整剤、調味料(核酸)、香料(大豆を含む)
オリジナル:乾燥ジャガイモ、植物油(コーン、綿実、高オレイン酸大豆、ヒマワリ油)、脱胚芽黄色コーンミール、コーンスターチ、米粉、マルトデキストリン、モノ‐及びジグリセリン脂肪酸エステル、塩、浮き粉
異なる原材料のうち味の違いに直結しそうなのが、酵母エキスパウダーである。酵母は、ビールやワイン、ウイスキーなどの酒類、味噌、醤油等の調味料、パンの製造に利用される微生物である。味噌や醤油に味や香りを与えるのも酵母である。酵母エキスは酵母が含まれる成分を抽出したものだ。
「うましお味」進化仮説??
なぜ日本限定のフレーバーがうましお味なのか。プリングルズが日本に上陸したとき、うましお味というフレーバーはなかった。日本でもプリングルズの塩味といえばオリジナルだった。その後、黄色いパッケージの「マイルドソフト」が発売され、いつのまにかうましお味になった。うましお味は日本での独自進化といえるわけだが、なぜに進化の方向性が酵母エキスを加えてうましお味にするという道になったのか。
ちゃんと検証したわけではないが、僕は日本人の旨味好きが背景にあるんじゃないかとにらんでいる。歴史的に日本では肉類を食べる習慣がなく、汁物をつくるときも肉類で出汁を取ることはなかった。肉は、水で煮込むだけでもアミノ酸や脂が溶け出すので簡単に美味しいスープが出来上がる。しかし、肉を使わないとなるとそうはいかない。代わりに発達したのが出汁専用食品である。すなわち、昆布や煮干し、鰹節にしいたけなどだ。
欧米では味は、塩味、甘味、苦味、酸味で決まるとされてきた。しかし、これら4つの味では僕らが出汁を飲んだときに感じるあの豊かな味わいを表現できない。塩味、甘味、苦味、酸味をどうこねくり回したところで、美味しい出汁を飲んだときの、ほぉ〜と唸ってしまうあの喜びをちゃんと表現できないのだ。
日本のポテチのど定番は、塩、のりしお、コンソメである。僕はこの3つが定番というのはとても面白いことだと思ってる。のりしおもコンソメもそれ自体が主役というよりは、ちょっと足して風味を豊かにするもの、スープなどのベースになるものであって、バーベキュー味とかサワークリームオニオン味とか、それ自体が単体でソースとして成り立つようなものではない。塩味にしても日本の塩味は海外のシーソルト系ポテチのように原材料塩のみ!ではなくて、アミノ酸系の調味料が加えられていることがほとんどである。塩のみ、という塩味は最近よく見かけるようになったとはいえ少数派だ。
日本人が美味い!と肚落ちするには、開発者的にも消費者的にもポテチに旨味を感じられる必要があったのだと想像する。旨味を再現するためにアミノ酸系の旨味を含む酵母エキスが入れられるようになったのだと思うのだ。そして、プリングルズが日本で定着するにつれて、日本化を遂げ、その進化として結実したのがうましお味なのである。これが僕のうましお味誕生仮説である。
とここまでおれの独自仮説すごいだろばりに書いてきたが、改めてググってみると日本人向けにプリングルズが旨味をパワーアップさせたという記事を見つけてしまった(2015年の記事)。やはり僕の仮説は正しかったのだ、という思いと、まあそれくらい誰でも想像できるよね、という哀しさの相半ばというところか。
『うましお』開発のために、『プリングルズ』は日本人の好む“しお味”を徹底的に研究。ポテトの味わいを改良し、そのネーミングどおり“うまみ”をパワーアップさせた“しお味”なのだとか。
御託はここまでにして、うましお味を食べる。うましお味もうまい。僕は概して食塩しか添加されていない塩味よりもアミノ酸系の旨味が加えられている日本のポテチのほうが好きである。ただ、うましお味もうまいのだけど、なぜかプリングルズに限ってはオリジナルのキリッとした塩味のほうが好きなんだよね。不思議なことに。