フラ印のうすしお味を食べる
みんな大好き、私も大好き、フラ印のポテトチップス。フラダンサーがハワイの風と美味しさを届けてくれる。 生まれてはじめてフラ印を見たときは舶来品だと思ってた。
実際は日本のポテチ。今ではカルビー傘下のソシオ工房が製造しているが、もともとは我が国ポテチ元祖、濱田音四郎氏が興したアメリカンポテトチップ株式会社の製品だ。第2次大戦後、進駐軍の米兵から勧められたのがポテチ作り。進駐軍相手につくったポテチはバカ売れし、彼らが去ったのちはホテルやデパート等への地道な営業活動を続けやがてポテチが日本に浸透する。濱田氏はポテチの製造特許を取らず、ポテチ作りを習いに来る人にも対価をとらず製造方法を教えた、といういかにも昭和な義侠心あふれる人物であった。
濱田氏は、和歌山で網元をしていた父親の元で生まれ育つ。長じて船の乗組員となる。秩父丸というアメリカ行きの客船に船員として選ばれたが、中継地のハワイで現地に住む和歌山からの移住者との会話に花が咲き、気づけば出航時間が過ぎていて濱田氏はハワイに置いてけぼりとなった。次の船が1ヶ月後に来たものの、すでに代わりの船員が雇われていたこと、太平洋戦争前夜で日本の生活は苦しいためハワイに残った方がいいと説得されたことで、濱田氏はハワイに残った。しかし、すぐに真珠湾攻撃によって太平洋戦争が勃発、日本人である濱田氏は日系人の強制収容所に入られ、戦後になってようやく日本に帰国できた。
終戦直後の日本はとても貧しく濱田氏は栄養失調に悩まされたが、米国進駐軍が日本に到着すると通訳としてハワイ在住の日系二世が来日、その中には濱田氏の友人もいた。友人に誘われ東京に行き、進駐軍の米兵と交流を持つようになる。彼らから勧められたのがポテチの販売だった。
日本にはポテチがなかったため、濱田氏はハワイの友人からポテトチップス製造の機械を送ってもらい、市ヶ谷でポテチづくりを開始する。ポテチは進駐軍に大変人気で、5、6年は製造が間に合わないほどだったという。ただ、米軍が撤退すると新たな市場の開拓を迫られ、濱田氏は試食用のサンプルを持ってホテルのビアガーデンなどに盛んに売り込んだ。はじめは断れてばかりだったが、何回もチャレンジするうちにやがて取引してもらえるようになり、徐々にホテルやデパート、スーパーなどと取引が広がっていった。「これだけはやりとげてみせる」という濱田氏の意志の強さに感服するばかりである。
濱田氏のすごさは、ポテチの製造方法の特許を取得しなかったこと、そして製造方法を教えて欲しいという希望者に対価を取らずに製造方法を進んで教えたことにある。濱田氏がハワイに置き去りにされたことは前述のとおり。その秩父丸は戦争中に米国の魚雷攻撃を受けて沈没、乗員乗客は全員命を落とす。その意味で濱田氏は強運の持ち主といえるわけだが、彼はその経験から人間はまじめに生きるべきで、相手を不幸にするような生き方をしてはならないと考えるようになり、社会奉仕の心を忘れないように生きようと決めたのであった(拙著「ポテチの日本伝来〜濱田音四郎氏の功績〜」『ポテチ入門〜ポテトチップスを愛する人に捧げる書〜』
現在のポテチ市場は、カルビーのシェアが圧倒的、それに湖池屋と山芳が続く。1960年台後半まで遡ると、アメリカンポテトチップは、4パーセントのシェアがあった。それにしても、湖池屋以外は名前を今は聞かない。ポテチ市場も時代とともに大きく移り変わる。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。
図表:1969年のポテチ市場マーケットシェア(%)
出所:拙著「ポテチの市場動向」『ポテチ入門〜ポテトチップスを愛する人に捧げる書〜』、元データは、富士経済『’70 食品マーケティング要覧 No.1 スナック食品市場の展望』1969年、142頁。
さて、ポテチを食べよう。
原材料は、こんなところ。原材料はカルビーのうすしお味と同じ。フラ印のうすしお味はもともとこの配合なのか、それともカルビーの子会社だから?パッケージは発売当初から変わっていないそうだけど。
ジャガイモ
植物油
食塩
こんぶエキスパウダー
調味料(アミノ酸等)
あっさりとした塩味の中にこんぶエキスパウダーの旨味がほんのり香る。カルビーや湖池屋のうすしお味に比べるとほんのわずか味付けが薄めのような気がする。だからだろう、170グラムの大容量サイズがあっという間に減っていく。読書しながら、映画見ながら、ゲームしながらぱくぱくつまんでいると、えっ、もう終わり?くらいぱくぱくいけちゃう。ぱりっとした食感といい、まさにうすしお味の王道中の王道。
フラ印の中で何が一番好き?と聞かれたら、ブルーのパッケージの「カイソルト」で、両者並べるとカイソルトに手が伸びることが多いのだが、なかなかどうして、ベーシックなうすしお味だって美味しい。
ハワイアンサワークリームもうまいが、カイソルトやうすしお味のほうがいいかな。フラ印を食べるなら。
170グラムと大容量サイズだし、よくあるスーパーには置かれていなくてディスカウントされていないことも多いから、一袋の値段は高いのだが、グラム単価だとコンビニの大手ポテチで大差ない。というかむしろ安いくらい。自分が買った成城石井だと税込で約280円。グラムあたり約1.65円。対して、コンビニポテチが85グラムで約150円。グラムあたり1.77円。
成城石井など、得てしてこだわりスーパーで見かけることが多いからか、実のところ値段的に大差ないのにフラ印はちょっと特別感がある。これはブランド化戦略として意図的にやっているのか、それとも生産力に限界があるか、単に広くマーケットに流通させられないだけなのか。その意図を私は知らないが、結果としてブランド力強化につながっているように思う。
うすしお味をペロリとたいらげ、フラ印の美味しさを改めて確信したのであった。
ごちそうさま。次は何味を食べようか。
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